..... 昼下がりのオペ室 .....
..... At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; August 6, 2001.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
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サザン・ホスピタルB棟三階。ここに手術室があります。整形外科病棟から直でつながってます。

整形外科の手術風景ってハタから見ると異様でしょうね。感染予防のため、通常「宇宙服」とよばれる格好で頭から全身すっぽり包んで手術に望みます。今回はTHA(人工股関節全置手術)。整形外科ではポピュラーな手術です。

本日の執刀医は伊東武弘先生、第一助手は上間勉先生(敬語にしておこう)、第二助手が照喜名裕太先生。器械出しは東風平多恵子。他に麻酔医と外回りナースと手術を見学する研修医がいます。



うちの病院ですが、担当医による手術説明のほかに、器械出し担当も別枠で患者さんとお話できるシステムです。(薬剤師も定期的に病室まで巡回して質問タイムを設けたりしています。)

お話するったって、たいした内容ではありません。アレルギーの有無ですとか(極めてまれですが、手術用手袋でアレルギーを起こす患者さんの話を『ゴッドハンド輝』で読みました)、術式の説明とか、金属製品は全部はずしてくださいとか、基本的な確認が主なんですけどね。

たった10分程度でも、患者さんとお話できると違うものです。患者さんの中にはドクターに言い出せない不安を打ち明けてくださる方もいらっしゃったりします。

オペ室に患者さん目線を持つ看護師がいるというのは、医師が手術に集中できるという点からみても、大事なことなんです。



とはいえ、患者さんと次にお会いするときはオペ室なので、すでに麻酔に掛かって眠っていらっしゃることがほとんど。患者さんの本人確認、手術部位の確認(これはとても重要です!)、輸液(点滴のこと)の管理や術前患者さんの緊張をほぐすのは、外回りナースの役目なんですよ。

あたしが到着して器械チェックしていると、レントゲン写真などがパネルに張られ、先生方が入室します。

「それでは、はじめます。お願いします」

「おねがいしまーす」



最初に股関節を展開しまして、大腿骨をださなくてはなりません。今回は右股関節です。レントゲンを元に、骨の位置を患者さんの患部にトレースします。それから、メスを入れていきます。

「人工骨頭って、みるたびに思うんですけどタコに似てますよねー」

「タコねー、タコ! タコのあーたまにはーちまき巻いて♪」

なぜか伊東先生が歌いながらメイヨーでじょきじょき術部を開いてます。

「おお、ムテキングですね」

「上間、お前よく知ってるなー」

第一助手の勉は伊東先生の側で鈎引きです。鈎引きってのは術部が見えやすいように、専用器具で皮膚や肉を引っ張る係のこと。

とても重いのでしょう。第二助手の照喜名先生が患者さんの足を持ち替えながら聞き返す。

「よいしょっ。……ムテキングってタイムボカンシリーズでしたっけ?」

「あーよく勘違いしてそう思われるけど、違うんですよ。ね、上間先生?」

「そうそう、同じタツノコプロですけど全然違います。マジンガーZとトライダーG7くらい違います。コッヘルくださーい」

はいはい。コッヘル。さっさと取ってください。あたしもちょっとだけ会話に参加してみようかしら。

「トライダーG7ってタケオゼネラルカンパニーだっけ?」

「多恵子ちゃん詳しいねー。ナレーターが機動戦士ガンダムと同じ人って知ってた?」

伊東先生がつぶやく。そんな細かいことまでは知りませんってば。

「伊東先生、そういえば『りゅうぎんロボ』ってあれマジンガーZですよね?」

「いや、どちらかというとあれはゲッターロボだな。合体するじゃないか」



先生方、会話の内容がアホそのものです。とてもオペ室とは思えません。

とはいえ無関係ともいえないんですよね。整形外科って骨を切り離したり繋いだり新しい関節を組み込んだり、ロボットづくりに似てなくもない。

それにオペって意識が指先に集中しているから、話そのものは本当にくだらない。麻酔かかって手術されている患者さんがゲッターロボなんて聞いたら、卒倒するかも。



術部から変形した関節が見えてきました。これを切り取って人工関節と置換するんです。ここから勉が研修医と持ち場をかわります。

「電ノコください。じゃ、いきまーす」

勉のその足で再び電動ノコギリを持てる日が来るとは思わなかった。ジャーッとすごい音がします。骨切っているから当然といえば当然。

「切れました。摘出します。エレバください」

整形外科の手術器具って、わけわからないのばかりです。のこぎり、ハンマー、ノミとか見せられたときには「ひぇー」って感じでしたが、エレバやラスプに至ってはもう???ですよ。あたしも夫が整形外科医じゃなかったら、覚えようとしなかったかも。



ここまで患者さんの状態は順調です。骨を摘出したあと、いよいよ人工股関節を設置する準備にはいります。伊東先生が指導しながら勉にさせてます。というかほとんど伊東先生がやってます。

まず、骨をノミで削って接合面をきれいにします。カン、カン、カン……。すさまじい音にも慣れてきた今日この頃です。

つづいて人工股関節を順序良くとりつけます。関節は動くタマみたいな部分と受け皿とで成り立ってますよね。

最初に骨盤側の臼蓋側には、受け皿(カップ)を取り付けて、その次に軟骨のかわりになるライナーを取り付けます。感染症予防の処置を施したり、ミリ単位での確認作業が必要になりますが、慣れてくるとさっさと取り付けが完了します。

つぎに大腿骨側。タマみたいな部分(ヘッド)をとりつけるためには、装置の基部(ステム)を骨に埋め込んで一体化する必要があります。そのために大腿骨にヤスリで穴を掘るんです(ラスピング)。大腿骨の内側は柔らかめなので作業そのものは短時間で終了しますが、これもミリ単位の正確さが要求されます。

「ラスピング終了。消毒します。セメント準備しててください」



で、掘った穴の内側にセメントを塗りまして、そこにステムを打ち込みます。これは勉がやります。

トン、テン、カン……。どこからどうみても、手術というより大工さんですよこれは。しかも歌を歌いながら打ち込んでるし。

「かーちゃんの為ならエーンヤコーラ」

勉、あんたが歌ってる「かーちゃん」って、ダーナさん? それとも、あたし?

「イエス様って、大工だったんですよ。僕とおなじ気持ちでお仕事していたのかなー」

うーん、そんなことお考えになるのは照喜名先生だけだと思う。



ようやくステムにヘッドを取り付けました。整復して洗浄します。

ドレーンを確認。あとは縫合です。ここまでくると、ほっとした雰囲気がオペ室全体を包み込みます。伊東先生はよくスーダラ節を歌いながら縫うので、吹き出しそうになってちょっと困っちゃいます。



「はい、終わりました。お疲れ様でしたー」

お疲れ様でしたー。さてと、器械片付けなくっちゃ。

「ああ、もう手がだるだるー」

照喜名先生が両手をだらーんと垂らしながら退出されました。手持ち足持ちは整形外科医を目指す新人なら誰でも通る道。里香のためにもがんばれー!

外回りナースが患者さんに声をかけます。

「終わりましたよー。どうですか?」

最近の麻酔というのはとても良く効いてすぐに覚醒します。お、患者さんのまぶたが動いてる。正常な反応です。

「わかったら手の指をちょっと動かしてくださーい」

患者さんが外回りナースに取られた手の指をかすかに震わせました。もう大丈夫です。覚醒する段階で気分が悪くなることもままありますが、傷口はわずか8センチですから、すぐ車椅子に乗れます。徐々にリハビリすれば、見違えるほど快適な生活ができますよ!

「ごめんな、俺、今日も泊り込みだから。じゃ」

勉があたしにそっと耳打ちして、さっさと出て行った。



最近いつもそうなんだけど、新婚夫婦の会話がオペ室だけだなんて、悲しすぎる。もうちょっとなんとかならないかなー。

(FIN)



りゅうぎんロボについては琉球銀行のWebsite(トップページリンク)へどうぞ。テレビCMコーナーでりゅうぎんロボの合体シーンなどが楽しめます。(りゅうぎんロボ誕生は2005年らしいのですが、若干年月を早めました。ご了承ください。)なお、この章の壁紙写真は ひまわりの小部屋さん http://www.aikis.or.jp/~himafp/からお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。(ぺこっ)

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